朗読作品集・作詞集・自由詩集

童話(おとぎ話)「公園」

更新日:

目次

童話(おとぎ話)「公園」

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「公園」

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「中学校なんて行きたくない!」

私は台所の母を横切る。
そして、私は玄関に向かって駆けだした。

「水樹、待ちなさい! こんな時間に何処に行くの」

「待たない! お母さんなんて大嫌い! ! 」

私は母の制止を振り切って、
新聞配達所の寮を飛び出した。

私は母の制止を振り切って、
新聞配達所の寮を飛び出した。
私の背中を追いかけるように
母の大声が放たれる。

「水樹!  いいから待ちなさい」

「良くない!!」

私は母の声を
振り払うように走り続ける。

私の後ろ髪を束ねた
赤いリボンが松明のように
闇夜の風に揺らめく。

私は夏風水樹。

(まさか、小学校最後の日がこんな風になるなんて……)

私は心の呟きを押しつぶすように
唇を噛みしめる。

すっかり陽は落ちて、
暗闇が包んだ商店街は
シャッターに閉ざされて、
街は静寂が支配している。

「東京だったらコンビニがあったけど、
 こんな田舎町にはそんなものはないか」

私は吐き捨てるように言って
公園へと足を向ける。

そうだ。
私の行き先はあそこしかない」

あの……

「あの座敷童がいる公園だ」

人通りの消えた歩道、
灯りの消えた信号機、
延々と繰り返されるシャッター街の静寂を
私は独りで駆け抜けていく。

「この街とはサヨナラしたい……」

私はふと出た言葉の続きを飲み込んだ。

私は弱気を押しつぶすように
ギュッと拳を握りしめる。
そして、私は自分を
鼓舞するように大声を放つ。

「あの赤い着物の座敷童とは
 サヨウナラなんてしたくない! 」

私は弱い自分に別れを告げるように
強く地面を蹴った。

私は脇目もふらず、
商店街を一目散に走り抜けて、
夜の公園へと辿り着いた。

土管をトンネルを通り抜け、
シーソーの波を飛び越えて、
砂場の海を駆け抜けたら、そこは――

「座敷童――」

座敷童のいる、あのブランコだ。

私はブランコに向かってゆっくりと歩く。

座敷童の赤い着物が
陽炎のように揺らめいている。
座敷童は手招きするように
大きくブランコを漕いだ。

「水樹ちゃん。いらっしゃい」

「座敷童――」

私は一瞬の沈黙の後、
座敷童に吸い寄せられるように
近づいていく。

「座敷童。会いたかったよ」

「沙織ちゃん。いらっしゃい」

座敷童は微笑みを浮かべながら
私に話しかけてくる。

「待ってたよ。沙織ちゃん」

座敷童はブランコに揺られたまま、
私に声をかけてきた。

「待ってたよ。沙織ちゃん」

「待ってた……って、
 座敷童は私が公園に来ることを
 知ってたの?」

「……」

座敷童は無言のまま頷いたように
ブランコを大きく上下させた。

「座敷童……。そういえば、あの時も、このブランコで――」

私は座敷童をじっと見つめた。

すると、座敷童と
初めて出会った日の事が
鮮やかに蘇って来た。

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☆回想

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小学五年生の秋――。
私の両親は離婚したんだ。
私はお母さんに引き取られた。

そして――

お母さんは私を連れて
縁も所縁もないこの町へと流れ着いたんだ。

女手一つで子供を抱えて
暮らして行くとなると職種は限られる。

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ましてや、
私たちは見知らぬ土地からやって来たヨソ者だ。

どの町でも・・・・・・
子連れ女のヨソ者には冷たかった。
 
だから――

お母さんはこの町に着くなり、
この新聞配達所に飛び込んだんだ。

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お母さん「従業員募集か・・・・・・」

お母さんは窓に貼られている
従業員募集の張り紙を見るなり声を漏らした。

だから――

私は思わず不安になって口に出してしまう。

沙織「え? お母さん、また応募するの?」

お母さん「そう。応募してみる。だって――」

母は一呼吸置いて口を開く。

お母さん「だって、お仕事をしなきゃ暮らしていけないでしょ?」

お母さんは毅然とした口調で言い放った。

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それでも・・・・・・

私はまくしたてるように口にする。

沙織「また行くの?」

お母さん「行かなきゃどうする――」 

沙織「どうせまた惨めな思いをするだけじゃない!」

私は抑えてた気持ちを吐き出すように言葉を投げつける。

沙織「おそば屋さん、ラーメン屋さん、旅館にホテル・・・・・・
   みんな不合格だったじゃない」

さっきまでの出来事が私の瞼(まぶた)に浮かんでは消えて行く。

そして――
私はお母さんに抗議するように口を開く。

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沙織「そこまでする必要ある?」 

沙織「こんな惨めな思いしてまで行くこと――」

お母さん「どんな惨めな思いをしても働かなきゃ・・・・・・
     生きていけないでしょ?」

お母さんは決意を含んだ眼差しで私を見つめた。

だから――

私は思わず息を飲むように出かかった言葉を飲み込んだ。

沙織「・・・・・・うん――」

お母さん「ここで決まらなきゃ今夜は野宿だからね」

お母さんは自分に言い聞かせるように言った。

そして・・・・・・

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お母さんは新聞配達所のドアを開けた。

お母さん「すいません――」

所長「はい。朝刊ですか?夕刊ですか?」

所長さんらしき人が少し驚いたように声を放った。

そして――

お母さんは少し戸惑ったように言葉を濁す。

お母さん「いえ。どちらも――」

所長「あ、どちらもお買い求めになられますか?」

所長さんらしき人は新聞棚から新聞を取り出していく。

所長「えーと・・・・・・朝刊110円、夕刊50円で、160円になります」

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所長さんは右手に持った新聞を二部(にぶ)お母さんに差し出した。
だから、お母さんは間違いを正すように口を開く。

お母さん「いえ。こちらで働かせて欲しいんです」

所長「あ、従業員募集の――」

所長さんは何かに気づいたようにお母さんを見やった。
すると、お母さんは背筋をピンと伸ばして声を出した。

お母さん「はい。秋月と申します。よろしくお願い致します」

所長「と、すると――。そちらのお嬢さんは・・・・・・」

所長さんは私に向かっていきなり視線を投げた。
その時、私は戸惑いながら口ごもってしまった。

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沙織「あ、あの、私――」

お母さん「娘の沙織です」

お母さんは私の頭を押さえつけるようにして、
私に頭を下げさせた。

そして――

お母さんは私と一緒に頭を下げて挨拶をする。

お母さん「今日から母娘共々お世話になります」

所長「え・・・・・・は、はい。わかりました――」

所長さんはお母さんの気迫に
気圧(けお)されたように私達に会釈した。

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☆場面転換

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こうして――

お母さんはこの日から
新聞配達員として働くようになった。

私はお母さんと一緒に、
この新聞配達所の寮で暮らすようになったんだ。

でも・・・・・・

私はものすごく人見知りなんだ。

だから――

私は転校した学校になかなか馴染めずにいた。

私は学校で友達もできないまま、
この知らない街の公園で一人ぼっちで
過ごすようになっていったんだ。

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沙織「お母さん、今日も遅いなぁ・・・・・・」

私は公園のブランコに
ゆらゆらと揺られていた。

お母さんが仕事を終えて
新聞配達所の寮に帰ってくるのを
待っているんだ。
 
沙織「お腹空いたなぁ・・・・・・」

私はブランコに揺れながら、
自分のお腹を手で押さえた。

すると――

あァ・・・・・・

何処からともなく、
子守歌が聞こえてきた。

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座敷童「ねんねんころりよ。おころりよ・・・・・・」

沙織「誰? 誰が歌っているの?」

私は公園のあちこちに目をやる。

でも――

公園の何処を探しても・・・・・・

沙織「誰もいない――」

夕闇に染まる公園で、私はいつもと同じ一人ぼっちだ。

沙織(誰? 一体、誰なの――)

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私は寂しさを掻き消すように叫ぶ。

沙織「何処にいるの!」

沙織「誰かいるなら隠れていないで姿を見せて!」

座敷童「ここだよ。ここ――」

沙織「ここ・・・・・・?」

私は聞こえてきた声に目を向けた。

すると――

赤い着物の女の子が、
私の隣のブランコにちょこんと座っていたんだ。

沙織(さっきまで、誰もいなかったのに・・・・・・)
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私は赤い着物の女の子を見て唖然とした。

赤い着物の女の子は、
おかっぱ頭をしていた。
 
この赤い着物の女の子は
無邪気な笑みを浮かべながら
私を見つめている。

沙織(この子は、一体、誰なんだろう・・・・・・)

私は赤い着物の女の子を見つめて思いを巡らせる。

どうして――

沙織(どうして・・・・・・)

私は不思議そうに、赤い着物の女の子を見つめ返す。

沙織「ねぇ? どうして?」
   
沙織「どうして、こんな時間に一人でブランコになんかに乗っているの?」

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座敷童「・・・・・・・・・・・・」

赤い着物の女の子は何も言わずに、
私に向かって優しく微笑んだ。

沙織(可愛い。赤ちゃんが笑うみたいに可愛い)

私は赤い着物の女の子の笑みに心がときめいた。

沙織(こんなに可愛く笑える子も、
   私みたいに・・・・・・一人ぼっちなのかな?)

私は勇気を出して、赤い着物の女の子に声をかける。

沙織「あ、あなたは誰?」

座敷童「私は座敷童。よろしくね」

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座敷童と名乗った
赤い着物の女の子は、私に向かってにっこりと笑った。

私は座敷童に向かって話しかける。

沙織「私、沙織って言うんだ・・・・・・」

私は緊張をかき消すように立て続けに言葉をつないでいく。

沙織「あのね? 
   私は近くの新聞配達所の寮にお母さんと住んでるんだ」

座敷童「沙織ちゃんて言うんだ」

沙織「うん・・・・・・」

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私は思いきって喉の奥につかえていた言葉を口にした。

沙織「ねぇ? 座敷童。あなたは何処に住んでいるの?」

座敷童の表情が急に曇った。

そして――

座敷童は伏し目がちに寂しそうに呟いた。

座敷童「私が長い事住んでいたお家が潰され、この公園ができたんだ」

座敷童「だから・・・・・・今は一人でここに住んでるんだよ」

沙織「一人で・・・・・・」

(座敷童って、こんな所に一人で住んでるの!)

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私は思わず言葉を失ってしまった。

ジャングルジム、シーソー、滑り台、ブランコ、ベンチ・・・・・・

この公園には
雨風をしのげる場所なんて、
何処にもなかった。

沙織(座敷童はどうやって生活をしているのだろう?)

私の心にふとそんな疑問が浮かんだ。

沙織(私だって夜中に一人でおトイレに行くのは恐いのに・・・・・・)

私の瞼に
新聞配達所の暗い廊下の奥にある
トイレが浮かんで来る。

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沙織(この子は、この公園で一人ぼっちで夜を明かしているんだ)

私は隣にいる座敷童に視線を投げた。

そしたら――

私は理由もなく悲しくなって・・・・・・
私は思わず目に涙が浮かべてしまったんだ。

沙織「ね、ねぇ・・・・・・」

私の口から言葉が漏れてしまう。

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沙織「座敷童は一人で寂しくないの?」

座敷童「・・・・・・・・・・・・」

座敷童は黙ったまま、
首を上下に振るようにブランコを動かし始めた。

だから――

私は座敷童より大きくブランコを動かしながら言った。

沙織「ねぇ? 座敷童・・・・・・」

私は何かを打ち明けるように思い切って口を開く。

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沙織「私と友達になろう? 
   一人では寂しくても二人なら楽しくなれるよ」

座敷童「うん」

座敷童は
空のお月様よりも明るい笑顔で
笑った。

その日から――

私は学校から帰ると真っ直ぐに公園に走ったんだ。

私はランドセルを背負ったまま、
公園のシーソーに乗って飛び跳ねて、滑り台を滑り降りては駆け上がり、
ジャングルジムの頂上から、
夕焼けを眺めては月明かりの下でブランコを動かしたんだ。

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☆回想終了

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そんな・・・・・・

そんな私の側には、いつも赤い着物の座敷童がいた。

あの日で――

あの日で、私は一人ぼっちを卒業したんだ・・・・・・

沙織(それなのに・・・・・・)

それなのにっ・・・・・・!

沙織「それなのに! 今日でお別れなんて嫌だよ! 座敷童!」

私は目に涙を滲ませながら、
隣のブランコの座敷童に訴えた。

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私が背負ったランドセルが
寒さに震える子犬のように
ガタガタと音を立てて震えている。

座敷童は感情を抑えた声色で私に告げる。

座敷童「沙織ちゃん。今まで有り難う」

座敷童「昨日も言ったけど・・・・・・
    大人になると、私は見えなくなるんだよ」

沙織「そんな事・・・・・・イキナリ言われても納得なんてできないよ!!」 

沙織「中学生はまだ子供なんだよ! 座敷童――」

座敷童「沙織ちゃん。この公園にあった家が
    畑に囲まれていた頃はね。女の子は、みんな・・・・・」

座敷童が言葉に詰まったように口をつぐむ。

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そして――

座敷童は私を諭すように言葉を継げた。

座敷童「沙織ちゃん。女の子はね?」

座敷童「沙織ちゃん位の歳になると、
    みんなお嫁入りをしていたんだよ」

座敷童の真っ直ぐな瞳が、私に訴えかける。

でも――

私は座敷童の訴えをかき消すように
言葉に感情を込めて言う。

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沙織「お願い! 座敷童。これからも私と一緒にいて!」 

沙織「私、もうあなたなしじゃ生きていけないの!」 

沙織「お願い! 私を・・・・・・もう一人にしないで!」

私は肩を震わせながら座敷童に言った。

沙織「もう――。一人ぼっちは嫌なんだよ。座敷童・・・・・・」

あぁ・・・・・・。

一人ぼっちだった孤独な日々の光景が、
私の脳裏を走馬燈のように駆け巡る。

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抑えきれなくなった涙が、
私の瞳から濁流のように溢れてくる。

沙織「お願いだよ・・・・・・」

沙織「ねぇ、座敷童――。これからも、私の側にいてよ」

私は顔を涙でくしゃくしゃにしながら、座敷童に訴えた。

だけども――

座敷童は穏やかな表情のまま、
私を諭すように告げてきた。

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座敷童「沙織ちゃん。私はいつも沙織ちゃんの側にいるよ。

座敷童「ただ、私が見えなくなるだけだよ」

沙織「え? 私が見えなくなる・・・・・・って?」

座敷童「ねんねんころりよ。おころりよ」

座敷童は
ブランコに揺られたまま、
子守歌を歌い出した。

この公園で
座敷童と初めて出会った時に聞こえた
あの子守歌だ。

座敷童「私はいつでも沙織ちゃんの側にいるからね・・・・・・」

あァ――――。

座敷童の清流のように
透き通った声が
子守歌の中に消えていく。

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沙織「座敷童・・・・・・!」

私は思わずブランコから立ち上がった。

そして・・・・・・

私は無我夢中で座敷童の姿を探した。

でも――

座敷童の姿は公園の何処にもなかった。

ただ――

私の隣の無人のブランコだけが、
誰かが乗っているように
大きく大きく揺れ動いていた。

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沙織「座敷童――――――!」

私はありったけの大きな声で座敷童を求めて叫んだ。

しかし――

いくら座敷童を呼び求めても・・・・・・

私の声は無人の夜の公園の静寂の闇に
吸い込まれるように消えていくだけだった。

これが――

私が座敷童を見た最後の景色だった。

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☆場面転換

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詩織「ねんねんころりよ。おころりよ」

沙織「詩織? その歌、何処で覚えたの?」

私は公園のブランコに揺られながら、
娘の詩織に問いかけた。

私の初めての娘である詩織は、
今日で五歳になった。
 
詩織は私の膝の上で無邪気にはしゃぎながら、
隣のブランコを指差して口を開いた。

詩織「お母さん。この子が歌っているお歌だよ」

沙織「この子?」

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私は隣のブランコに目をやった。

私の隣のブランコは誰もいないのに、
陽炎のようにゆらゆらと揺れている。

詩織「お母さん。この赤い服の子だよ」

詩織は無人のブランコを指差しながら口を開く。

詩織「ねぇ? お母さんも聞こえるでしょう?」 

詩織「ねんねんころりよ――って」

沙織「座敷・・・・・・童・・・・・・」

あァ――――。

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私の胸底から、
あの日の懐かしさが・・・・・・
――今、怒濤のようにあふれ出していく。

沙織(座敷童だ――)

あァ――。

私の目の前が・・・・・・
十数年前のあの公園の景色で埋め尽くされていく。

私の目の前には何もない。

ただ――

私の隣のブランコが風もないのに、
ゆらゆらと揺れているだけだ。

今の私の心のように――
溢れ出してくる涙のように・・・・・・

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あァ――。

ブランコは風もないのに、
ゆらゆらと揺れているのだ。

沙織「ありがとう・・・・・・」

私はやっとの事で精一杯の声を振り絞った。

そして――

娘の詩織は心配そうに私を見上げてくる。

詩織「お母さん。どうしたの? ねぇ・・・・・・お母さん?」

沙織「何でもない。詩織・・・・・・何でもないのよ」

私は揺れ動く心と
それにつられて動揺する詩織を
落ち着かせる。

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でも――

いくら心を落ち着かせても・・・・・・
私の隣で無人のブランコは、
ますます大きく揺れ動く。

公園にいるお母さん達は・・・・・・
私の隣で揺れ動く無人のブランコを
不思議そうに見つめている。

公園ママA「ちょっと? あのブランコおかしくない?」

公園ママB「あのブランコだけが、ナンであんなに揺れてるの?」

お母さん達の騒ぎ声が公園に満ちていく。

だけども――

子供達はお母さん達に抱かれながら、
ブランコを見つめて無邪気に笑っている。

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優子「こんにちわー。私、優子って言うんだよー」

恵子「私は、恵子ー! ねんねんころりーよ」

あァ――。

子供達は座敷童のように、
無邪気な笑みを浮かべては、
無人のブランコに語りかけている。

沙織「座敷童・・・・・・」

私の口から呟きが漏れた。

そして――

詩織が私の服を引っ張りながら、
急かすように聞いてくる。

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詩織「ねぇねぇ、お母さん? あの赤い服の子がね・・・・・」
 
詩織は隣の無人のブランコを指差しながらこう言った。

座敷童「沙織ちゃん。私は――、いつでも沙織ちゃんの側にいたよ」

座敷童「ずっとずっと・・・・・沙織ちゃんを見守っていたよ――」

詩織「――だって。ねぇ? お母さん。沙織ちゃんて・・・・・・誰?」

私の目からは
涙が津波のように流れて来て
止まらなかった。

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それでも――

私は言葉を振り絞ろうとする。

沙織「沙織は私の――」

沙織(私の――――、あなたのお母さんの名前だよ・・・・・・)

沙織「・・・・・・詩織」

私は言い出せなかった言葉を心の中で呟いた。

詩織「お母さん?」

詩織は私を心配そうにのぞき込む。

沙織(私にも家族ができたよ・・・・・・)

私は姿の見えない座敷童に向かって
声を出さずに語りかけていく。

沙織(こんな私を・・・・・・心配してくれる家族ができたんだよ――)

沙織「――座敷童」

私の目から
涙と言葉とが同時に
こぼれおちた。

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詩織「お母・・・・・・さん?」

詩織が私の涙に向かって手を伸ばす。

沙織(心配してくれて・・・・・・)

沙織「ありがとう。詩織――」

私は詩織の手をしっかりと握りしめた。

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沙織(もう――、一人ぼっちなんかじゃない・・・・・・)

私の心の中で・・・・・・
公園で一人ぼっちだった
あの日の私が口を開く。

沙織「ありがとう。座敷童――」

あァ――――。

無人のブランコは凧のように、
勢いよく空に舞い上る。

あァ・・・・・・。
無人のブランコが空に舞う。

誰もいないブランコは、
まるで誰かに操られている
鯉のぼりのように
空を泳いでいる

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沙織(座敷・・・・・・)

詩織「座敷童――」

詩織は私が言いかけた言葉を口ずさんだ。

そして――

あの日の座敷童のように・・・・・・
私達は赤ちゃんのような笑顔で口ずさむ。

沙織「ねんねんころりよ」

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詩織「おころりよ」

詩織はこの公園で十数年前に出会った
座敷童のように優しく微笑んだ。

あの日の――
座敷童の笑顔で優しく微笑んでいた。

座敷童「ねんねんころりよ。おころりよ」

☆おしまい

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