目次
小説『鬼の街』自由詩『雪の花。春の花』
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小説『鬼の街』
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私はずっと探していた。
この地に巡り来た“理由”を――。
私がこの地に足を踏み入れた“あの日”。
私はこの地の異質の空気に
戸惑っていた。、
寂れた駅舎に描かれた
一枚の鬼の絵。
私を出迎えた鬼の絵が
異様な空気を纏ったまま
出迎えの言葉をかけてきた
“立ち留まるなよ”
”抜け出せなくなるぞ”
私は魔界の沼に入り込んでしまった。
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私が来てから、この地は栄えた。
ショッピングセンター、
デパート、ファストファッション、
この田舎街は不釣り合いな
賑わいに活気づいた。
休日のデパートは
殊更に華やいだ。
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店内から押し出された
人波の渦は大輪の花となって
デパートを取り囲み、
永い行列を連ねた
エスカレーターの列が
大名行列のように
上へ上へと行進していった。
その姿は百合の花の中心の
一本の雄蘂のように
空高く歓声を響かせていった。
夏祭りのような光景が
週末になるたびに訪れては、
田舎町と分不相応な
狂騒が繰り返されていった。
だが、身の丈知らずの繁栄など
長くは続かななった。
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“ある日”を境に、
この街は衰退を始めた。
大都会から招聘した
ブランド店が続々と徹底し、
もぬけの殻の
ショッピングセンターは
ビルごと灰燼と化した。
人々は街から先を争うように消え、
乱立した飲食店は
立ち枯れた木のようになって
蛻の殻(もぬけのから)となった。
正月には獅子舞と歓声が舞った
老舗のデパートも閑古鳥が鳴き、
やがては鳥も止まらぬような
枯れ木になって消えていった。
閉店したデパートの
大木が立ち枯れたような光景は、
この街の衰退を
そのまま比喩しているようで
悲しかった。
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私が見ていた景色は
一体、何だったのだろうか？
季節が通り抜けていくように、
一本の記録映画を観るように、
私はこの街の栄枯盛衰を
見せつけられて戸惑った。
春夏秋冬の季節のように、
私はこの街で目覚め、
隆盛の夏を過ごし、
凋落と盛衰の秋を迎え、
また、この街は……永い冬の眠りに
辿り着こうとしている。
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“今度の眠りは永眠となるであろう”
鬼が予言めいたことを呟いた。
「言われなくてもわかってるさ」
私は“あの日”の
鬼の絵に背中を向けた。
私がこの地に招かれた、理由――。
今、理解した。
私はこの地の栄枯盛衰を
見届ける“役目”だったのだ。
残念ながら、
私はこの地の“終わり”まで
見ていくつもりはない。
無論、この地と共に
滅び去ることなどできない。
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もう、終わりは目に見えている。
この鬼の街の終わりを見届ける。
それは、この鬼の街の人々の“役目”だ。
そして……、
出迎えの鬼は、
“終わりの日”まで、
この鬼の地で
旅人を出迎えるのだろう。
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「抜け出せるかどうか、それは、鬼次第だけど」
“よき旅を”
鬼は呟くようにと言って、
左手の子鈴をちりんと鳴らした。
私は、また旅に出る。
人生という船旅に――。
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小説『鬼の街』
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自由詩『雪の花。春の花』
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あなたは雪だった。
私のそばにいてくれた白い雪だった。
でも……
私は上を向いてばかりいた。
私が見上げた先にある
あの空の向こう側から
雪の花がやって来る。
私はずっとそう信じていたんだ。
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私は旅人だった。
私は旅を一休みして
この世界に小さな花園を作った。
やがて――
この花園には
花が咲くようになっていった。
花園は夏になった。
夏になったから、
花園が夏になったんじゃない。
あなたが来たから、
花園は夏になったんだ。
あなたは夏だった。
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あなたは無邪気で
それでいてヤンチャな
まるでヒマワリのようだった。
私はいつまでも……
あなたが夏に微笑む
ヒマワリだとばかり思っていた。
ある日――。
ヒマワリは私から頬を背けた。
私は理由がわからずに
ただ、戸惑うばかりだった。
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ヒマワリは
いつも太陽に顔を向ける花だ。
いつしか私は……
あなたの太陽ではなくなっていたんだ。
やがて、
夏は去って行った。
でも、
私は花園を捨てなかった。
雨風や雷雨が
この花園を通り過ぎても
私はこの花園を独りで守り続けた。
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そして、
夏は冬になった。
あの夏は白い雪になって
この花園に戻って来てくれた。
私はいつまでも……
この冬が続くと信じて
疑わなかった。
百花繚乱の花園は
単衣の雪の花嫁衣装に白く包まれて
雪の包み紙を纏った花束のように
私の全てをあなたの色に染め抜いていた。
足跡も傷跡も涙の跡も
全ては雪に埋もれて
白銀に抱かれたように消えて行く。
今までの悲しみや苦しみが
この幸せを感じるためにあった。
私はそう信じられるようになっていた。
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花は花園以外でも咲いた。
誰も知らない
あなたと私だけの
あの場所で
今までの別離を
取り戻すかのように
二人の花は咲いていた。
二人だけの
あの世界で
その雪の花は咲いていたんだ。
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あぁ、だけど――
あなたは雪だけど冬だった
あなたは冬に耐えて
花咲く季節を待っていたんだ。
私もあなたのそばで
あなたの花が咲くのを
楽しみに待っていた。
幸せを待ち望む
一番の幸せな時間が
永遠に続く
私はそう信じて止まなかった。
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あなたは花を咲かせた。
私も待ち望んだあなたの花だ。
私が大好きな……
あなたという君の花なんだ。
やがて――
春になった。
あなたが待ち望んだ
春がやっと来たんだ。
あなたは春になった。
でも……
私が待ち望んだ
春にはならなかった。
この春は――
あなただけの春だったんだ。
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春風が冬から雪を目覚めさせる。
雪解けの水は
花園を潤して、
雪の中に隠れていた
春の花が咲いていった。
あなたはまた去って行く。
私の所に帰って来てくれた時のように
季節が通り過ぎていくように
あなたはまた……
あの春の彼方へと消えて行く。
この空の向こう側へと
あなたは去って行く。
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花園には君がいた。
冬の花園には君と僕がいた。
そして――
花園からあなたが消えて……
あなたが残した
この春の花が咲いたんだ。
あの花園にはあなたがいた。
冬の花園にはあなたと私がいた。
この花園から
あなたが消えて雪の花が消えて
あなたが残した春の花が咲いたんだ。
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この花園にはあなたがいた。
冬の花園には私とあなたがいた。
この花園から
あなたが消えて……
雪の花が消えて……
あなたが残した
この春の花が咲いたんだ。
この花園に
あなたという春の花が咲いたんだ。
春というあなただけの花が咲いたんだ。
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『雪の花。春の花』
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