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【トロツコ1】『本文・まとめ・定期テスト対策問題』【芥川龍之介】【芥川龍之介】

更新日:

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目次

トロツコ(芥川龍之介先生)作品概要・作品まとめ

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☆トロツコ(芥川龍之介先生)

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☆作品名

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トロツコ
新仮名では「トロッコ」と表記

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☆著者名

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芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)

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☆成立

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大正十一年(1922年)。

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☆ジャンル

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短編小説

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☆豆知識

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トロツコは、
湯河原出身の
力石平三記者が描いた
手記がもとになっています。

この手記の内容は、
力石平三が幼少時代に
熱海軽便鉄道の工事を
見物した時の回想です。

この幼少時代の回想の手記を、
芥川龍之介が描きなおしたのが
トロツコという作品です。

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☆あらすじ

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小田原・熱海間に
軽便鉄道敷設の工事が
始まった。

良平(八歳)は、
工事現場で使う
土砂運搬用のトロッコに
非常に興味を抱いていた。

ある日のこと。

良平は、トロッコを運搬している
土工と一緒に、
トロッコを押すことになった。

最初は良平も有頂天だった。
でも、だんだんと帰りが
不安になっていった。

そして、良平は途中で土工に、
遅くなったから帰るように
言われた。

だから、良平は一人暗い坂道を
「命さえ助かれば」と思いながら
必死で駆け抜けた。

やがて、良平は家に着いたとたん、
泣き出してしまうのだった。

良平は大人になり東京に出てきた。

良平は子供時代の
トロッコの体験を回想した。

そして、塵労に疲れた良平の前には、
あの時の薄暗かった坂の路が
一筋断続していた。

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ダニ・ハウスダストにふとんクリーナーレイコップ

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トロツコ(芥川龍之介先生 本文!口語訳!現代語訳!

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トロッコ  芥川龍之介
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小田原熱海(あたみ)間に、
軽便鉄道敷設(ふせつ)の
工事が始まったのは、
良平(りょうへい)の
八つの年だった。

良平は毎日村外(はず)れへ、
その工事を見物に行った。

工事を――といったところが、
唯(ただ)トロッコで
土を運搬する
――それが面白さに
見に行ったのである。

トロッコの上には土工が二人、
土を積んだ後(うしろ)に
佇(たたず)んでいる。

トロッコは
山を下(くだ)るのだから、
人手を借りずに走って来る。

煽(あお)るように
車台が動いたり、
土工の袢天(はんてん)の
裾(すそ)がひらついたり、
細い線路がしなったり――

良平はそんなけしきを
眺(なが)めながら、
土工になりたいと
思う事がある。

せめては一度でも
土工と一しょに、
トロッコへ乗りたいと
思う事もある。

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トロッコは
村外れの平地へ来ると、
自然と其処(そこ)に
止まってしまう。

と同時に土工たちは、
身軽にトロッコを
飛び降りるが早いか、
その線路の終点へ
車の土をぶちまける。

それから今度は
トロッコを押し押し、
もと来た山の方へ登り始める。

良平はその時乗れないまでも、
押す事さえ出来たらと
思うのである。

或(ある)夕方、
――それは二月の初旬だった。

良平は二つ下の弟や、
弟と同じ年の隣の子供と、
トロッコの置いてある
村外れへ行った。

トロッコは
泥だらけになったまま、
薄明るい中に並んでいる。

が、その外(ほか)は
何処(どこ)を見ても、
土工たちの姿は見えなかった。

三人の子供は恐る恐る、
一番端(はし)にある
トロッコを押した。

トロッコは
三人の力が揃(そろ)うと、
突然ごろりと車輪をまわした。

良平はこの音にひやりとした。

しかし二度目の車輪の音は、
もう彼を驚かさなかった。

ごろり、ごろり、
――トロッコはそう云う音と共に、
三人の手に押されながら、
そろそろ線路を登って行った。

その内にかれこれ
十間(けん)程来ると、
線路の勾配(こうばい)が
急になり出した。

トロッコも三人の力では、
いくら押しても
動かなくなった。

どうかすれば車と一しょに、
押し戻されそうにもなる事がある。

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良平はもう好(よ)いと
思ったから、
年下の二人に合図をした。

「さあ、乗ろう!」

彼等は一度に手をはなすと、
トロッコの上へ飛び乗った。

トロッコは
最初徐(おもむ)ろに、
それから見る見る勢(いきおい)よく、
一息に線路を下(くだ)り出した。

その途端に
つき当りの風景は、
忽(たちま)ち両側へ分かれるように、
ずんずん目の前へ展開して来る。

顔に当る薄暮(はくぼ)の風、
足の下に躍(おど)る
トロッコの動揺、
――良平は殆(ほとん)ど
有頂天(うちょうてん)になった。

しかしトロッコは
二三分の後(のち)、
もうもとの終点に
止まっていた。

「さあ、もう一度押すじゃあ」

良平は年下の二人と一しょに、
又トロッコを
押し上げにかかった。

が、まだ車輪も動かない内に、
突然彼等の後(うしろ)には、
誰かの足音が聞え出した。

のみならずそれは
聞え出したと思うと、
急にこう云う怒鳴り声に変った。

「この野郎! 誰に断(ことわ)って
 トロに触(さわ)った?」

其処には
古い印袢天(しるしばんてん)に、
季節外れの
麦藁帽(むぎわらぼう)をかぶった、
背の高い土工が佇んでいる。

――そう云う姿が目にはいった時、
良平は年下の二人と一しょに、
もう五六間逃げ出していた。

――それぎり良平は使の帰りに、
人気のない工事場の
トロッコを見ても、
二度と乗って見ようと
思った事はない。

唯その時の土工の姿は、
今でも良平の頭の何処かに、
はっきりした記憶を残している。

薄明りの中に仄(ほの)めいた、
小さい黄色の麦藁帽、
――しかしその記憶さえも、
年毎(としごと)に
色彩は薄れるらしい。

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その後(のち)十日余りたってから、
良平は又たった一人、
午(ひる)過ぎの
工事場に佇みながら、
トロッコの来るのを
眺めていた。

すると土を積んだ
トロッコの外(ほか)に、
枕木(まくらぎ)を積んだ
トロッコが一輛(りょう)、
これは本線になる筈(はず)の、
太い線路を登って来た。

このトロッコを押しているのは、
二人とも若い男だった。

良平は彼等を見た時から、
何だか親しみ易(やす)いような
気がした。

「この人たちならば叱(しか)られない」

――彼はそう思いながら、
トロッコの側(そば)へ
駈(か)けて行った。

「おじさん。押してやろうか?」

その中の一人、
――縞(しま)のシャツを着ている男は、
俯向(うつむ)きに
トロッコを押したまま、
思った通り快い返事をした。

「おお、押してくよう」

良平は二人の間にはいると、
力一杯押し始めた。

「われは中中(なかなか)力があるな」

他(た)の一人、
――耳に巻煙草(まきたばこ)を
挟(はさ)んだ男も、
こう良平を褒(ほ)めてくれた。

その内に線路の勾配は、
だんだん楽になり始めた。

「もう押さなくとも好(よ)い」

――良平は今にも云われるかと
内心気がかりでならなかった。

が、若い二人の土工は、
前よりも腰を起したぎり、
黙黙と車を押し続けていた。

良平はとうとうこらえ切れずに、
怯(お)ず怯(お)ず
こんな事を尋ねて見た。

「何時(いつ)までも押していて好(い)い?」

「好いとも」

二人は同時に返事をした。
良平は「優しい人たちだ」と
思った。

五六町余り押し続けたら、
線路はもう一度急勾配になった。

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其処には
両側の蜜柑畑(みかんばたけ)に、
黄色い実が
いくつも日を受けている。

「登り路(みち)の方が好い、
 何時(いつ)までも押させてくれるから」

――良平はそんな事を考えながら、
全身でトロッコを押すようにした。

蜜柑畑の間を登りつめると、
急に線路は下(くだ)りになった。

縞のシャツを着ている男は、
良平に「やい、乗れ」と云った。

良平は直(すぐ)に飛び乗った。

トロッコは
三人が乗り移ると同時に、
蜜柑畑の(におい)を
煽(あお)りながら、
ひた辷(すべ)りに線路を
走り出した。

「押すよりも乗る方がずっと好い」

――良平は羽織に
風を孕(はら)ませながら、
当り前の事を考えた。

「行きに押す所が多ければ、
 帰りに又乗る所が多い」

――そうもまた考えたりした。

竹藪(たけやぶ)のある所へ来ると、
トロッコは静かに
走るのを止(や)めた。

三人は又前のように、
重いトロッコを押し始めた。
竹藪は何時か雑木林になった。

爪先(つまさき)上りの
所所(ところどころ)には、
赤錆(あかさび)の線路も
見えない程、
落葉のたまっている場所もあった。

その路をやっと登り切ったら、
今度は高い崖(がけ)の向うに、
広広と薄ら寒い海が開けた。

と同時に良平の頭には、
余り遠く来過ぎた事が、
急にはっきりと感じられた。

三人は又トロッコへ乗った。

車は海を右にしながら、
雑木の枝の下を走って行った。

しかし良平はさっきのように、
面白い気もちにはなれなかった。

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「もう帰ってくれれば好(い)い」

――彼はそうも念じて見た。

が、行く所まで行きつかなければ、
トロッコも彼等も帰れない事は、
勿論(もちろん)彼にも
わかり切っていた。

その次に車の止まったのは、
切崩(きりくず)した山を
背負っている、
藁屋根の茶店の前だった。

二人の土工はその店へはいると、
乳呑児(ちのみご)をおぶった
上(かみ)さんを相手に、
悠悠(ゆうゆう)と
茶などを飲み始めた。

良平は独(ひと)りいらいらしながら、
トロッコのまわりを
まわって見た。

トロッコには
頑丈(がんじょう)な車台の板に、
跳(は)ねかえった
泥が乾(かわ)いていた。

少時(しばらく)の後(のち)
茶店を出て来しなに、

巻煙草を耳に挟(はさ)んだ男は、
(その時はもう挟んでいなかったが)
トロッコの側にいる良平に
新聞紙に包んだ駄菓子をくれた。

良平は冷淡に
「難有(ありがと)う」と云った。

が、直(すぐ)に冷淡にしては、
相手にすまないと思い直した。

彼はその冷淡さを取り繕うように、
包み菓子の一つを
口へ入れた。

菓子には新聞紙にあったらしい、
石油のがしみついていた。

三人はトロッコを押しながら
緩(ゆる)い傾斜を
登って行った。

良平は車に手をかけていても、
心は外(ほか)の事を
考えていた。

その坂を向うへ下(お)り切ると、
又同じような茶店があった。

土工たちが
その中へはいった後(あと)、
良平はトロッコに腰をかけながら、
帰る事ばかり気にしていた。

茶店の前には花のさいた梅に、
西日の光が消えかかっている。

「もう日が暮れる」

――彼はそう考えると、
ぼんやり腰かけてもいられなかった。

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トロッコの車輪を蹴(け)って見たり、
一人では動かないのを
承知しながら
うんうんそれを押して見たり、
――そんな事に気もちを紛らせていた。

ところが土工たちは出て来ると、
車の上の枕木(まくらぎ)に
手をかけながら、
無造作(むぞうさ)に彼にこう云った。

「われはもう帰んな。
 おれたちは今日は向う泊りだから」

「あんまり帰りが遅くなると
 われの家(うち)でも心配するずら」

良平は一瞬間呆気(あっけ)にとられた。

もうかれこれ暗くなる事、
去年の暮母と岩村まで来たが、
今日の途(みち)は
その三四倍ある事、

それを今からたった一人、
歩いて帰らなければならない事、
――そう云う事が一時にわかったのである。

良平は殆(ほとん)ど
泣きそうになった。

が、泣いても仕方がないと
思った。

泣いている場合ではないとも
思った。

彼は若い二人の土工に、
取って附けたような
御時宜(おじぎ)をすると、
どんどん線路伝いに走り出した。

良平は少時(しばらく)無我夢中に
線路の側を走り続けた。

その内に懐(ふところ)の
菓子包みが、
邪魔になる事に気がついたから、

それを路側(みちばた)へ
抛(ほ)り出す次手(ついで)に、
板草履(いたぞうり)も
其処へ脱ぎ捨ててしまった。

すると薄い足袋(たび)の裏へ
じかに小石が食いこんだが、
足だけは遙(はる)かに
軽くなった。

彼は左に海を感じながら、
急な坂路(さかみち)を
駈(か)け登った。

時時涙がこみ上げて来ると、
自然に顔が歪(ゆが)んで来る。

――それは無理に我慢しても、
鼻だけは絶えずくうくう鳴った。

竹藪の側を駈け抜けると、
夕焼けのした日金山(ひがねやま)の空も、
もう火照(ほて)りが
消えかかっていた。

良平は、愈(いよいよ)気が気でなかった。

往(ゆ)きと返(かえ)りと変るせいか、
景色の違うのも不安だった。

すると今度は着物までも、
汗の濡(ぬ)れ通ったのが
気になったから、

やはり必死に駈け続けたなり、
羽織を路側(みちばた)へ
脱いで捨てた。

蜜柑畑へ来る頃には、
あたりは暗くなる一方だった。

「命さえ助かれば――」

良平はそう思いながら、
辷(すべ)ってもつまずいても
走って行った。

やっと遠い夕闇(ゆうやみ)の中に、
村外れの工事場が見えた時、
良平は一思いに泣きたくなった。

しかしその時もべそはかいたが、
とうとう泣かずに駈け続けた。

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彼の村へはいって見ると、
もう両側の家家には、
電燈の光がさし合っていた。

良平はその電燈の光に、
頭から汗の湯気(ゆげ)の立つのが、
彼自身にもはっきりわかった。

井戸端に水を汲(く)んでいる
女衆(おんなしゅう)や、
畑から帰って来る
男衆(おとこしゅう)は、
良平が喘(あえ)ぎ喘ぎ走るのを
見ては、

「おいどうしたね?」などと声をかけた。

が、彼は無言のまま、
雑貨屋だの床屋だの、
明るい家の前を走り過ぎた。

彼の家(うち)の門口(かどぐち)へ
駈けこんだ時、
良平はとうとう大声に、
わっと泣き出さずには
いられなかった。

その泣き声は彼の周囲(まわり)へ、
一時に父や母を集まらせた。

殊(こと)に母は何とか云いながら、
良平の体を抱(かか)えるようにした。

が、良平は手足をもがきながら、
啜(すす)り上げ啜り上げ
泣き続けた。

その声が余り激しかったせいか、
近所の女衆も三四人、
薄暗い門口へ集って来た。

父母は勿論その人たちは、
口口に彼の泣く訣(わけ)を
尋ねた。

しかし彼は何と云われても
泣き立てるより外に
仕方がなかった。

あの遠い路を駈け通して来た、
今までの心細さをふり返ると、
いくら大声に泣き続けても、
足りない気もちに迫られながら、…………

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良平は二十六の年、
妻子(さいし)と一しょに
東京へ出て来た。

今では或雑誌社の二階に、
校正の朱筆(しゅふで)を
握っている。

が、彼はどうかすると、
全然何の理由もないのに、
その時の彼を思い出す事がある。

全然何の理由もないのに?

――塵労(じんろう)に疲れた
彼の前には今でもやはりその時のように、

薄暗い藪や坂のある路が、
細細と一すじ断続している。…………

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トロッコ  芥川龍之介

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ラブライブ!コラボキャンペーン

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トロツコ(芥川龍之介先生)板書!解説!語句まとめ!

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芥川龍之介先生について

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☆芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)

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日本の小説家です。

芥川龍之介の作品の多くは短編です。
代表作には
芋粥・藪の中・地獄変・歯車などがあります。

芥川龍之介の作品には
今昔物語集・宇治拾遺物語など
古典から題材を得た作品が多いです。

また、蜘蛛の糸や杜子春といった
童話も書きました。

菊池寛は芥川龍之介の業績を讃えて
芥川龍之介賞を創設しました。

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☆芥川龍之介先生の作品の特徴

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芥川龍之介の作品は短篇小説が有名です。

初期の作品には
芥川龍之介(英文科出身)らしく、
西洋文学を和訳した作品もあります。

小説の文章の構成も
英文学の影響を受けています。

また、主に短編小説を描いていて、
多数の傑作を生み出しました。

残念なのは、
芥川龍之介は長編小説が苦手だったことです。
(邪宗門や路上などの未完作品があります)。

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☆芥川龍之介先生の作品の変遷

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芥川龍之介の
初期の作品と晩年の作品は
別人が描いたように違います。

この違いは、
芥川龍之介が色々な作風の小説を
描いたことに由来しています。

芥川龍之介の豊富な作風は
大勢のファンを魅了しています。

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☆芥川龍之介先生の初期の作品

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説話文学をもとにした
歴史小説が多いです。

代表作としては
羅生門や鼻や芋粥などがあげられます。
キリシタンの小説も書いています。

歴史物小説においては、
人の内面やエゴイズムを描写した
作品が多いです。

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☆芥川龍之介先生の中期の作品

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地獄変に代表される
芸術至上主義的な作品が
多くなっています。

芥川龍之介には珍しい
長編小説(邪宗門)も書いています。

芥川龍之介の中期の作品は
文学者達から評価されていないものが
多くあります。

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☆芥川龍之介先生の晩年の作品

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芥川龍之介自身の
人生を振り返ったり、
人の生死に関係する小説が
多いです。

初期の作品よりも、
晩年の作品を評価する
文学者も多いです。

大道寺信輔の半生や
点鬼簿などの告白的な自伝も
描いています。

この時期の代表作は河童です。

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ロリポップ!★104種類もの面白くて可愛いドメインがたくさん♪

EGOISM.JP / VIVIAN.JP / RAINDROP.JP / ZOMBIE.JP / MODS.JP ...

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現代文定期テスト予想対策問題

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一、次の文の(   )に語句を記入して正しい文にしなさい。

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芥川龍之介は主に(  )小説を描き、(  )小説は苦手だった。
芥川龍之介の(  )の作品と(  )の作品は大きく違う。
これは、色々な(   )の小説を描いたことに由来しています。

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二、語句の中から(   )にあてはまる適切な語句を選んで記入しなさい。

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芥川龍之介の初期の作品の代表作は(   )や( )や(  )などである。
芥川龍之介の中期の作品の代表作は(   )などである。
芥川龍之介の晩年の作品の代表作は(  )などである。

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☆語句

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人間失格・芋粥・河童

地獄変・雪国・羅生門

鼻・伊豆の踊子・灯籠

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格安ドメイン取得サービス─ムームードメイン─

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現代文定期テスト予想対策問題解説・解答

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一、次の文の(   )に語句を記入して正しい文にしなさい。

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芥川龍之介は主に(短編)小説を描き、(長編)小説は苦手だった。
芥川龍之介の(初期)の作品と(晩年)の作品は大きく違う。
これは、色々な(作風)の小説を描いたことに由来しています。

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二、語句の中から(   )にあてはまる適切な語句を選んで記入しなさい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

芥川龍之介の初期の作品の代表作は(羅生門)や(鼻)や(芋粥)などである。
芥川龍之介の中期の作品の代表作は(地獄変)などである。
芥川龍之介の晩年の作品の代表作は(河童)などである。

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☆語句

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人間失格・芋粥・河童・

地獄変・雪国・羅生門・

鼻・伊豆の踊子・灯籠

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ムームードメイン

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☆現代語・現代文・国文法学習次回の記事です☆
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【芥川龍之介】『トロツコ2』【定期テスト対策問題】


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☆現代語・現代文・国文法学習前回の記事です☆
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☆古文漢文現代文学習ブログの記事です☆
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【古文のルール】『歴史的仮名遣い(古典仮名遣い)1』


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